AMIA 2025 年次大会 参加報告
前川 充(オムニアート合同会社、AMIA会員、JAMIA理事)

2025年12月3日〜5日、AMIA(Association of Moving Image Archivists)2025年次大会が米国メリーランド州ボルティモアで開催された。
今大会はAMIA設立35周年にあたり、技術・倫理・教育・保存インフラを横断する包括的なプログラムが編成された。

■ オープニング基調講演:公共記憶と文化的信頼
Robert Newlen(Acting Librarian of Congress)
急速に変化するメディア環境において、アーカイブ機関が担うべき中核的課題として、以下が提示された。
- 文化的スチュワードシップ
- 制度的透明性
- 公共へのアクセス保証
- 信頼(public trust)の強化
AIの進展や政治的緊張が高まる時代において、アーカイブは人々の記憶(memory)を伝え、未来へ残す公共的基盤であると強調された。35周年を迎えたAMIAが、国際的な専門家ネットワークとして果たしてきた貢献は大きいと語った。
■ AIによる記述補完:埋もれた映像アーカイブの可視化
Kevin Glick(Aviary)
多くのアーカイブでは、膨大な映像資料が存在する一方で、詳細な目録作成が追いつかず、「存在しているのに発見されない」資料が少なくない。
これに対し、以下の手法によるAI技術を組み合わせた実践例を紹介した。
- 音声文字起こし(speech-to-text)
- 固有表現抽出(人物名・地名・組織名など)
- 映像内容解析(オブジェクト検出・シーン分析)
- 自動要約生成
AIはコスト効率が高く、スケーラブルであるため、限られた人的資源のもとでも大量資料に基礎的な記述付与が可能になる。発見可能性(discoverability)を高めるための「第一段階の記述」として、現実的かつ有効なアプローチである。
■ 制作・編集の履歴をWAVファイルに埋め込む:FADGI AVによるC2PAの試み
Kate Murray / Morgan Morel / Dan Hockstein (Library of Congress)
C2PA(Coalition for Content Provenance and Authenticity)は、デジタルコンテンツに
- 作成
- 編集
- 変換
- AI関与の有無
といった来歴情報を標準化された形で埋め込むためのオープン仕様である。
従来のWAVは音声データを保存するフォーマットであったが、C2PAを組み込むことで、「誰が、いつ、どのような処理を行ったか」をファイル自体が主張できるようになる仕組みが提示された。
生成AIの普及により真正性(authenticity)の確保が重要性を増す中、デジタル保存ファイルに「信頼のレイヤー」を追加する試みである。
■ FM RF方式によるビデオテープからの最終保存AVマスター抽出
Michael Metzger (Block Museum of Art)
VHS等のビデオテープから、従来のベースバンド出力を経由せず、RF信号を直接取得しソフトウェアで復号することで、高忠実度の映像・音声を再構成する手法が紹介された。
処理時間やファイルサイズの課題はあるものの、「物理信号に最も近い形で最終保存マスターを制作する」という理念は、長期保存における新たな可能性を示している。
■ AIとフェアユースをめぐる法的整理
Patricia Aufderheide (American University) ほか
生成AIの急速な普及を背景に、現在進行中の訴訟や政策動向を踏まえ、以下の論点が整理された。
- AI学習はフェアユースに該当し得るのか
- 「変容性(transformative use)」はどのように判断されるのか
- 権利者の市場侵害はどのように評価されるのか
AI生成物の著作権保護範囲と、AI学習過程における利用の適法性は依然として流動的であり、判例と政策形成を継続的に注視する必要があるとの認識が共有された。
また、著作権のみではAIとの関係を十分に整理できない可能性も指摘された。その文脈で、Creative Commonsによる「CC Signals」にも言及があった。
CC Signalsは、データセット提供者がAI学習に対する意思表示(許可・条件付き許可・拒否)を機械可読で示す枠組みであり、法制度を補完する透明性確保の手段として紹介された。
■ CAVEの記憶:実験芸術と舞踏のアーカイブ上映
Benja Thompson / Ximena Garnica (LEIMAY)
ニューヨークのLEIMAYプロジェクトによるCAVEギャラリー・アーカイブは、1990年代後半以降の前衛芸術を記録したユニークな映像アーカイブである。完成された作品のみならず、「実験の連鎖」そのものを記録し続けてきた姿勢が特徴的であった。
上映では、日本から参加した故大野慶人氏らによる舞踏ワークショップの映像も紹介され、ニューヨーク前衛文化と日本の舞踏との交流の軌跡を示す貴重な記録が確認できた。
今後、日本のアーカイブ団体との連携や情報共有の可能性についても模索していきたい。

■ 大会を通じて有用と感じたツールとシステム
- AssemblyAI:音声解析(文字起こし・要約・話者分離・タイムマップ生成)
- cloudglue:映像解析前処理(要約・キーワード抽出・話者特定など)
- spaCy:自然言語処理による固有表現抽出
- Airtable:柔軟なクラウド型メタデータ管理
- Aviary:AI支援による映像・音声公開プラットフォーム
■ 総括:Trustの時代
AMIA 2025を一言で表すならば、技術革新の時代における「信頼の再構築」である。
- AIは既に広範に導入されつつある。
- 磁気メディアは急速に劣化している。
- 保存資源は限られている。
その中で問われているのは、
- 何を保存するのか
- どのように真正性を証明するのか
- 誰のために公開するのか
という倫理的・社会的な問いである。
AMIA 2025を通じて、アーカイブの役割が「記録の保存」だけでなく、「社会的信頼」との関係の中で議論されていることが印象に残った。

